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超然永遠

だが母がときど


ぼくが帰省することは、妹が母に予告しているにちがいない。でも、母はすぐに忘れてしまうだろう。
この春に、母は新しい介護施設に移った。
環境が変わることを妹は心配していたけれど、新しく出来たその施設を母は気に入ってるらしい。もしかしたら、施設を変わったことも気付いていないのかもしれない。
母の中で、今日は必ずしも昨日と繋がってはいない。近くに住む妹は毎日のように母を訪ねているが、ときには「あんたは誰や」と不審がることもあるという。
だからぼくが訪ねても、「あんたは誰や」と言われるかもしれない。

その時ぼくは、いったい誰なんだろう。
人と人をつないでいるのは、たぶん共通の記憶なんだろう。たくさんの記憶を共有することで、親と子もまたつながっているのではないだろうか。
3年前に施設に入るまで母が住んでいた家は、現在もそのままある。だが母がときどき思い出す家は、子供たちもまだ小さくて、家族みんなが住んでいた昔の家らしい。その家はすでに取り壊されて今はない。それでも母の記憶の道は、その家につながっているようだ。
だから母は、もはやひとりでは家に帰ることはできない。帰ることができる家はあっても、記憶の中の家はなくなっている。

ぼくはあなたの子供です。そう言わなければならないのだろうか。
もしかしたら、古い記憶の中の古い家で、古い子供になって古い母に会うことになるかもしれない。
あしたぼくは、海の道を帰る。
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